2011.3.11-13 今貂子+倚羅座 新作舞踏公演『月世界』 Ima-Tenko plus Kiraza Butoh performance "Moon World"

お伽噺に、主人公がいくつもの扉を開けてゆき、その果てに(しばしば驚愕の)真実を目にするというのがある。今貂子+倚羅座公演の体験は、まさにそのような奥行きを備えている。京都は五條楽園歌舞練場から、“今・ここ”を突き抜ける豊穣なイメージを生み出してきた彼女たち。艶やかな打ち掛けや夜会服、襤褸のように崩した着物、縁起物の張りぼて……賑々しくも奇天烈な装いの演目は、『陰影礼賛』の美学に貫かれつつ、パンクなレビューとしても、老若男女の目を楽しませてきた。一方でそこでは、見せることは覆い隠すことと手を組んで、視線を翻弄しつつ導いてゆく。そうして、既知と未知の分かれ目でいくつもの扉をくぐり抜けていくと、今貂子の至芸が控えているのだ。ビー玉のような素通しの目、無数に割れて蠢き続ける筋肉。その顔には毎回違った“真実”が映し出される。『たからづくし』『鯉つかみ』『孔雀船』と来て、新作はいよいよ地上を離れるらしい。どんな道行きになるのか、今から楽しみでならない。